アメリカ ワシントン州上空1948

 

1945年10月に英国カナダ政府が枢軸軍との休戦条件として太平洋岸の一部を日本帝国に割譲して以来、

ジャップはバンクーバー、カルガリーなどを拠点として次第に兵力を増強していた。

わが国とカナダとの国境線は余りにも長大で、常にそのすべてを監視し続けるのは事実上不可能であった。

これを良いことに、ジャップは度々わが国の領空に偵察機を隠密裏に送り込んでいる。

奴らが「ロクシキシテイ(六式司令部偵察機)」と呼ぶ新型偵察機は双発ジェットエンジンを装備しており、

その速度性能はわが軍のレシプロ機はもとより、配備が進められている新型のジェット機をも上回るため、捕捉は容易ではない。

まして信じがたいほどの高高度を飛ぶ、六発エンジン装備と思われる大型機

(これはゼットキ、あるいはフガクと呼ばれているらしい)は明瞭な写真すら撮れないのだという。



黎明に本土へと低空進入してきた国籍不明機が対空レーダーに捉えられ、未だ眠りの中にあったわれわれの基地にも警報が鳴り響いた。

緊急発進のローテーションに当たっていた私は直ちに愛機に駆けつけたが、それより早く整備班がエンジンを始動してくれていた。

おかげでその数分後には私と愛機は地面を離れ、無線交信の誘導に従って接敵を開始することが出来たのであった。


「・・・キャット01、ウィッチサイトよりトムキャット01。ジェリーマウスは現在、基地からのベクター2-6-0、距離90マイル付近を

時速300マイルで南下中。高度不明。発見次第、トムキャットは直ちにこれを撃墜せよ。繰り返す。直ちに撃墜せよ」




ゴッズ・ネイブル!これまでになく物騒な命令だ。

不明機を強制着陸させようなどという意図は、はなっから持ち合わせないらしい。

しかし気になるのは不明機の速度だ。ロクシキシテイの巡航速度にしては100マイル以上も遅すぎる。

何か考えがあるのか、それとも旧式機を繰り出しているのか。

後者ならば、いささかくたびれた私のコルセアでも与しやすいのだが・・・